THE FIRST TAKEで流されているものはピッチ修正が行われた後の音源、というトピックが話題になっていました。「ヤラセ」という表記があったので書いておきますが、ピッチ修正はヤラセではありませんね(笑)。ともあれ、僕が知っている限り一発録りで最初から最後まで完璧に歌える人は世界でも数少ないと思います。初めて歌ものを録音したジョアンヌ・ホッグさんは3テイクほど歌ってどのテイクも完璧なピッチとニュアンスで歌ってくれました。僕はその3テイクの中から最も優れたニュアンスで歌っているテイクを選ぶだけで感動する素晴らしい歌を完成することが出来ました。ちなみに、ピッチ修正という技術は1997年のAuto-Tuneというソフトから始まったと認識しています。Xenogearsの仕事をしていた時はピッチ修正の技術はまだ一般的ではなく、スタジオのエンジニアも存在すら知らない状況でした。その後、ペーターさんが開発した「メロダイン」という強烈なピッチ修正ソフトが発売されてからはピッチ修正が容易にできることもあり、日本の歌ものでは99%(一応99%にしておきます、笑)使われていると思います。さて、本題です。THE FIRST TAKEは一発録りというのが売りな番組です。なので一発録りをしていれば番組の趣旨からして間違っていません。後からピッチ修正をしているかどうかは「一発録り」とは関係ないからです。これがライブ放送でクチパクをしているのに一発録りという名目で番組を作っているなら「ヤラセ」ということになるでしょうね。なので、この番組自体は嘘はついていないし、ヤラセもしていないと思います。そこはどうでもよくて、今回、僕が気になったのはピッチ修正の肯定派、否定派の意見です。どちらも色々な考え方があるので否定も肯定もしませんが、根本的なことを忘れていないかな?と思いました。いまやどんな業種でも大概のことがソフトで出来てしまいます。AIの技術も日進月歩です。声さえ録音してしまえば、誰だって正確なピッチで歌わせる事ができます。だけど、それをリスナーが聴いて感動出来るかは別物です。ピッチ修正しても感動出来るならいいと思いますが、自分はピッチ修正された歌はだいたい聴けばすぐに分かるので最近の歌もので感動することはありません。それは多分、修正しすぎてその人本来の良さが消えて無くなってしまっているからなのだと思います。なんでもそうですが、綺麗すぎるのは味も素っ気もなくなるということです。それによりインパクトがなくなり、作品自体が面白くなくなってしまうということはよくある事実です。昔のアーティストのアルバムは技術的にそうしたことが出来なかったこともあり、非常に粗いのですが、それが味となって何度も聴きたくなるということはありますよね? ラフミックスの方がパワーがあって印象に残る、とか、写真も撮って出しの方が自然でいいとか、そういう事ってよくあると思うんです。結局、何が言いたいかというと、人が感動出来る,記憶に残る、そうしたものを今の技術を使って上手に作っていきましょうということです。やり過ぎは、作品をつまらなくするので(しらじらしいものは興醒めするので)